慌てて「発見リン止めネジ」を捏造し、その後に捏造が明らかにならないようにネジをスリ替えた道警
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●開示証拠によって証明された「発見リン止めネジ」のスリ替え
私は第65回コラムで、証拠開示された8月21日付け中島富士雄鑑定書(8月16日から18日に実施)と、8月26日付け吉村新作成の捜査関係事項照会回答書(8月26日に実施)の内容を比較して、8月10日に私の布団袋の中から「発見された」というリン止めネジは、ドライバー溝のドライバー痕の有無と、ネジの寸法の違いから、中島氏が検査したネジと吉村氏が検査したネジは全く別物であること。つまり警察が、中島氏の検査後に(より正確には鑑定書作成後に)、ドライバー痕のある別のネジにスリ替えて、それを吉村氏に検査させたことを証明しました。これは科学ですから、スリ替えの事実は100パーセント確実です。
スリ替えの事実は、8月10日に布団袋の中から「発見した」ということも虚偽であることを意味します。警察は外部からリン止めネジを隠し持ちこんで、あたかも私の布団袋の中から発見されたかのように演出したのでした。本当に発見されたのであれば、スリ替える必要性がありません。
●事態の進展が急過ぎてミスを犯した道警
8月21日付け中島鑑定書と1審48回中島証言(第65回コラム)により、「発見リン止めネジ」にはドライバー痕が付いていませんでした。ネジを布団袋の中に紛れ込ませて「発見」を装った里幸夫警部も、1審46回公判で「まあこれに固有の特徴というのはないと思いますけれども」(51、52頁)と答え、ネジに傷がついていないことを証言していました。つまり道警の幹部は、急きょ時計店でシチズンのトラベルウォッチを買い、リン止めネジをはずして、その傷の付いていないネジを里警部に持たせて「発見」を捏造させてしまったのです。それは以下に述べるように、事態が急展開したために時間の余裕がなく、よく考えることができなかったためです。
警察は1976年3月2日の事件発生から1、2ヶ月のうちに、捜査によって、本件の時限装置(シチズンのトラベルウォッチ。製造はリズム工業)は、リン(裏ぶた)を止めるリン止めネジ(マイナスネジ)2本の代わりに、ケース止めネジ(プラス・マイナス兼用ネジ)2本が使われていて、犯人の元にリン止めネジ2本が残ったこと。リン止めネジはリズム時計の独自規格のネジで、他社では使われていないこと。またリン止めネジ以外には使用していないことを把握していました。
しかし、道警は私の存在は7月になるまで全くつかんでいませんでした。しかも岐阜県警からの通報で知ったのです。岐阜県内で7月2日の夜に「可児町事件」が起こりました。私の友人が夜、山の中を歩いていてパトカーに職務質問を受けたのです。交番へ連れて行かれたのですが、彼は大きな荷物を置いて逃走しました。中身が爆発物に関係する材料等であったため、岐阜県警は彼を「毒物劇物取締法違反容疑」で全国指名手配しました。岐阜県警は彼の友人に私がいることをつかみ、7月16日に道警に「大森は彼の立ち回り先である。両者は友人同志である」旨を通報したのです。
道警が私を「彼の立ち回り先」として、内偵を始めたのは7月20日からでした。私は7月22日から姿を隠して、東京へ行っていました。私が自宅(大家の2階を間借り)に戻ったのは8月6日です。私は6日夜から物を投棄しました。6日夜に山中に捨てた物は、8日の午後に発見押収されました。私が8月7日に市内のゴミステーション等に投棄したものを押収して、内容物を検分した道警は、7日の夕方になって初めて私に道庁爆破の容疑をかけたのでした。私は8日の昼過ぎには質屋に行き、アパートを引きはらうのでテレビなどを買ってもらえないかと尋ねています。警察は尾行してきてそれを知ります。私は9日昼前には東区役所で転出手続きをしましたが、警察もついてきて把握しています。
道警が逮捕状請求の準備を開始するのは、8日の夜からです。「総合捜査報告書」は9日の昼ごろに出来上がります。道警が札幌簡易裁判所に、「爆発物取締罰則第3条違反容疑」で逮捕状を請求したのは8月10日の昼過ぎでした。そこには「被疑者は爆発物製造器具である消火器、セメント、乾電池、豆電球等を所持していた」と書かれてありますが、このような条文はありません。つまり、道警は法律にない「犯罪」で私を8月10日午後3時21分に苫小牧のフェリーターミナルで逮捕したのでした。それも逮捕状の緊急執行でした。私は10日午後1時17分にアパートを出て車で苫小牧へ向かいました。警察は4台ほどの車で尾行してきましたが、逮捕状はギリギリになって発布されたため、彼らは逮捕状を持っていませんでした。フェリーターミナルに着いて電話で本部に逮捕状の内容を聞いて、私に告げて逮捕したのでした。
以上のように、事態の進展が急であったために、道警の幹部(石原警視ら)はよく考えることが出来ず(逮捕状の「犯罪事実」も前記のように誤った)、慌ててトラベルウォッチを購入してドライバー痕がついていないリン止めネジを里警部に持たせて、「発見」を捏造させてしまったわけです。道警の幹部は、私を逮捕し起訴させるにはこの証拠捏造が必要だと考えたのです。
●道警がその後にネジをスリ替えた理由
時限装置の工作は、先ず時計本体をケース止めネジをはずして時計ケースからはずします。次にリン止めネジをはずしてリン(裏ぶた)をはずして、リード線を内部の下板止めネジにくくりつけたり、あげバネがおりた所にリード線をつけた電極を設置したりするのです。そしてリンをかぶせてリン止めネジで絞めます。時計からはリード線が2本出てますので、もう時計はケースに取りつけません。だからケース止めネジはもう使いません。本件の爆発物にも時計ケースはありませんでした。
時限装置の工作は上のことで終了するのではありません。爆発物は持ち運ばなくてはなりませんから、時限装置を実際に持って歩き振動を与えて、結線がゆるんでこないか、設置した電極の接着剤がゆるんできていないかを何度か確認しなくてはなりません。時間経過後の変化もチェックしなくてはなりません。あげバネが下りたときに電極にしっかりと接触するかも、何度か見てチェックする必要があります。そのため、何度もリンの内部を観察しなくてはなりませんから、リン止めネジを何度もはずしたり絞めたりすることになるのです。
当然、リン止めネジのドライバー溝にはドライバー痕が付くことになります。本件の場合、リン止めネジの代わりにケース止めネジが使われているのは、上のような工作によってリン止めネジのドライバー溝がつぶれてきて、十分絞めることができなくなってきたので、ケース止めネジでも代用できることがわかって使用したものと思われます。リン止めネジはマイナスネジ、ケース止めネジはプラス・マイナス兼用ネジであり、すぐに区別がつきます。だから犯人が、最初からケース止めネジでリンを止めるとはおよそ考えられません。つまり、犯人の元に残った2本のリン止めネジは、ドライバー溝にかなり傷が付いているネジになるのです。
道警の幹部はその後にこのことに気付きます。放置すれば、「発見ネジ」が捏造されたものであることが判ってしまうために、傷が付いたネジにスリ替えていったのです。証拠捏造は、言うまでもなく刑法犯罪であり、公正な裁判を否定する犯罪です。
2015年2月14日記
大森勝久
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